それはいかなる能力なのか?『君待秋ラは透きとおる』
感想と(考察というほどでもない)妄想。
以下、ネタバレあり。
異能力バトル×ミステリという触れ込みだけ知った上で読んだ。
なかなか面白かった。
ただ、バトルという意味では、最初の模擬戦がピークかもしれない。
通常の能力バトルでは、「敵の能力はどんな能力か?」を探るのが醍醐味の一つであるが、この小説では、それに加えて、自分の能力はどんな能力か?を探ることにも重点がある。
ダンゲロス的な理屈付けも読んでいて楽しい。
「ミステリ」という触れ込みについては、言うほどか?とも思ったが、まあ、ミステリなのだろう。
全体的に説明が多いけれども、シリーズの1作目としてみればこんなものだろうか。
模擬戦必勝法?
読み取れる模擬戦の条件は以下の通り。
・チームの1人ずつが帽子を持ち、相手チームの帽子を奪ったら勝ち
・帽子を服に隠すのは禁止。手に持つか被らなければならない(手放すのも可)
・怪我に繋がるようなラフプレイは禁止
・フィールドは体育館程度の広さ(高さは、飛び跳ねられる程度の高さの部屋から拡張して天井がはるかに高いといえる程度)
・チーム内で通話可能なヘッドセットを着用する
・麻楠は、任意の長さと太さの鉄筋を生成でき、簡単な加工もできる。1分間あたり最大300kg出せるが、限界に達すると気絶する場合がある。
・秋ラは、皮膚表面から約33cmの範囲内のモノを透明化できる。人(の眼)を透明化すると、その間、対象者は視力を失う。
・ラザロは任意の空間と空間を交換できる。切り出す力は弱く、事実上、気体しか切り出せない。能力発動による疲労はほとんどない。
(以下、この能力による移動をワープと呼ぶ)
・サフィは猫になれる。帽子を透明化されても嗅覚で場所が分かる。猫化しても体重は(ほぼ?)変わらない。
この条件だけみると、米軍チームにはかなり有利な戦法があるように思える。
「帽子を被ったラザロが数秒〜数十秒ごとにランダムな地点にワープし続け、また、日本チームが近づいてきたらワープする」方法である。
日本チームとしては、透明化せずに近づいたら逃げられるので、1人が透明化して他方が指示をして近づくしかない。
しかも、足音や息遣いで接近を気付かれるので走るのも難しい。
その条件で接近するのは困難だろう。
日本チームが攻めあぐねているうちに、猫化したサフィがワープして攻めれば勝てそうである。
また、天井が十分高いのであれば、「床から数メートルの空間にワープ→少し落下した後にまたその上空数メートルの空間にワープ」を繰り返し、上空に留まり続ける方法もある。
(最初の戦法と組み合わせるとより守りが堅い。)
この戦法が描写されていない理由はいくつかあり得る。*1
・米軍チームが考えつかなかった
・6戦目で採用された(作中では省略された)
・ラザロの能力には連続発動できない制約がある
・ラザロの能力に制約はないが、その手の内を日本側に明かしたくなかった
・確率は低いものの、透明化して潜んでいる日本チームの近くにたまたまワープしてしまう可能性もあるので、それを嫌った
こういう妄想ができるのも良い。
振興会の意思決定について
まず、秋ラへの勧誘の場面。
秋ラが能力を他人に使う可能性は低いという読みだったとはいえ、失明のおそれもあるのに麻楠が相対するのはどうか。
最悪、勧誘は失敗かつ麻楠が失明、という可能性があるわけで、そうなったら、振興会でまともに稼動できる匿技士は京都支部の2人だけ、という状況にならないだろうか。
次に、後半の真相について。
作中の作戦で米軍は欺けるだろうか。
サフィはおときさん(若)の装備を視認し得るわけで、米軍が装備やその他の情報の入手経路やに疑問を持ってもおかしくない。
作中で米軍が騙せたかは不明であるが、そもそも騙せるだろうという振興会の判断が疑問である。
また、作中でも疑問が示されているが、おときさんが勝って遺体を奪えてしまったときは、その後、どうする予定だったのだろうか。
振興会の別の人が殺す筋書きだった、とかだろうか。
また、この場面でも、貴重な匿技士である麻楠と秋ラが危険に晒されている。
おときさん(若)の装備は、サーモカメラとスタンガンだけとはいえ、現に作中で2人が死にかけているように危険はある。
この点は、おときさんの提示した条件だった可能性はある。
ただ、作戦が成功して米軍を欺けたとしても、以降はおときさんをおおっぴらに(米軍にバレる形で)使えるわけではないので、メリットは大きくない。*2
そのメリットのために麻楠と秋ラを危険に晒すのは妥当だろうか。
おわり