その漫画の反響は凄まじかった。
ある漫画家の新作読切り「クッルクッル」。
ネット媒体で公開されたそれは、そのクオリティの高さから、大いにネット内外で話題となった。
一方で、否定的な意見もあった。
作中の描写に問題があるというのだ。
そのような声は、公開後、数日のうちに大きくなっていく。
指摘を正当と認めた作者と編集部は、作品を一部修正することとした。
話はこれで終わらない。
修正後の描写にもまた、別の害悪がある、との批判が噴出したのだ。
前例がある以上、「修正は一律できない」といった言い訳は通じない。
修正しないということは、問題描写を是認するものだと捉えられてしまう。
作者と編集部は、再度の内容変更を余儀なくされた。
事態はさらに進行する。
天下の大雑誌に修正を受け入れさせ、名をあげんとする過激主義者、目立ちたがりの愉快犯、表現の自由を至上命題とする戦士たち。
ネット上では、「クッルクッル」の問題点探しとその反論が大いに盛り上がる。
批判、修正、批判、修正、批判、修正、批判……。
作品の更新のたびに、読者は変更点を見比べて思い思いに論評をする。
掲載サイトのアクセス数はうなぎのぼりだ。
作品批判の盛り上がりには、編集部が関与していたという説すらある。
当初は文字部分に留まっていた修正だが、そのうち、影響は絵にまで及ぶ。
数十回の描き直しを経て、作者らは大きな決断をする。
「クッルクッル」の小説化である。
新たな作品としてのノベライズではない。
漫画で発表したこと自体を変更し、小説だったことにするのだ。
度重なる修正の負担を考えた、苦肉の策であった。
それでも、ご指摘は止まらない。
小説にしたことで、これまで明確な描写がなかった部分も描写する必要が生じ、かえって批判を呼んだ側面もあった。
数千回数万回の修正を経て、タイトルも、キャラクターも、ストーリーも、大きく変わった。
女性2人の青春譚だった原作漫画30ページは、いつしか、文庫本換算にして8000ページ超、主要キャラは男性100余人のSF架空戦記小説へと変貌していた。
一時は、俳句、映画、編み物、学術論文、小便器などの形式をとったことからすれば、これでも初出時の内容に近いほうだといえるかもしれない。
ある時、やけになった作者は、全ての内容をリセットした。
これまでの顛末を小説にまとめたものを、新たな改訂稿としたのである。
そのタイトルは、「『ルックルック』改訂226010稿_ ご意見対応リリース_210715r2(Bパターン_1行追加ver.)」。
当然ながらこれもまた、修正を余儀なくされることだろう。
本作は、永久に内容が確定しない作品として、その実存を確定させたのだ。
※頂いたご指摘を踏まえて、内容を一部修正しました。
おわり