はじめに
世の中には、ギャルの登場する実話(風)エピソードが溢れている。*1
今回は、一部の実話(風)エピソードにおいて、ギャルがどのような役割を果たしているかを検討する。
具体的には、「ギャルが『来訪神』としての役割を果たしている」という話をしたい。*2
エピソード
検討対象のエピソードは以下のとおり。
①
ギャル服の会社にいた頃の飲み会で「死ぬまでに会いたい人」の話になったとき、ギャルが背中を押してくれた話 - Togetter
②
ギャルに救われて漫画家になれた漫画が感動的 - Togetter
③
ギャルの友達に大学に友達がいない事を相談した所の回答がこちらです「キュンと来た」「本質をついてくる」 - Togetter
④
新入社員のギャル、おっさん達の「彼氏いるのー?」というセクハラに対する返しが最高「大物になりそう」「使ってみよう」 - Togetter
⑤
美術の時間に描いた絵を教師からボロクソに言われるも、天使なギャルが助けてくれた話「死ぬ前に思い出したいエピソード」 - Togetter
⑥
「彼氏も作らず推しにお金使って何になるの?」って言われたけど、それに対するギャルの返しがめっちゃイケメンだし価値観はそれぞれ - Togetter
これらのエピソードの内容を整理すると、以下のようになる。*3
番号 | 関係*4 | 問題 | ギャルの行動 | 結果 |
---|---|---|---|---|
① | 同僚 | 会いたい人のイベント開催 | 参加の助言 | 語り手がイベントへ |
② | 初対面*5 | 夢を諦めかける | 夢を否定せず手伝う | 夢が実現 |
③ | 友人 | 友達がいない | 自分がいること等を指摘 | 語り手が泣く*6 |
④ | 新入社員 | セクハラ的質問 | 回答を拒絶 | - |
⑤ | 苦手な同級生 | 教師が絵を酷評 | 大声でフォロー | - |
⑥ | 不明*7 | 若手俳優への出費を笑われる | 横から擁護 | - |
来訪神について
次に、来訪神について確認する。
来訪神とは、定期的に異界から人間界へと訪れる神である。
典型的には、異形の姿で家々を訪れ、幸福をもたらす(場合によっては怠け者を戒める)とされる。
男鹿のなまはげはその一例である。*8
役割の検討
上記エピソード群を見ると、まず、いくつかのエピソード(②、④、⑤)では、語り手とギャルの当初の関係性はないか、薄い。
また、問題の背景にあるのは、既存の価値観や思考の枠組みである。
子供向けの遠方のイベントに予約なしに行かない(①)、現実的な目標を持つべきだ(②)、友人は持つべきだ(③)、先輩や教師には逆らわない(④、⑤)、趣味にお金を使いすぎない(⑥)。
ギャルは、そんな既存の価値観や思考の枠組みを飛び越えた言動を見せる。
そして、問題を解決する、もしくは、不適切な言動を行った者を戒めるのだ。
語り手と関係が薄い、もしくは、価値観や思考回路が異なる、という点は、来訪神が異界からやってくることと共通し、問題の解決等に至る点は、幸福などをもたらす点と共通する。
その意味で、実話(風)エピソードにおけるギャルは、来訪神なのだ。*9
マックの女子高生
ギャルと似て非なる者として「マックの女子高生」がいる。
両者が実話風エピソードでの頻繁に登場する理由には、共通する部分もあるだろう。
しかし、マックの女子高生は、産土神か地縛霊のごとく場所のシバリがある。
それに対し、ギャルには場所の制限はない。
ギャルは遍在するのだ。
ギャルの要請
では、なぜ実話(風)エピソードには、ギャルがよく出てくるのか。
・既存の価値観にとらわれない
・独自の強い信念を持つ
・おバカなイメージを持たれる場合もある
(「真理」をついた発言をさせると意外性があったり、かえって真実味があったりする)
といった点が使いやすいのだろう。
また、いつからから「オタクに対して好意的である」という言説が有力になってきたことや、属性としてのギャルが定着してきたことも影響しているかもしれない。*10
一方、(男性の)ヤンキーも上記の要素を持っていそうだが、ギャルほど実話風エピソードに登場する印象はない。
暴力的なイメージから忌避されるのだろうか。
ギャルの多義性
最後に、ギャルの多義性について言及しておく。
「ギャル」という言葉がどういう人を指すかは、時代によって、また、人によって様々である。
単に「若い女性」を指すこともあれば、「ブランド品を好む拝金的で非社会性と幼児性をあわせもった若い女性」のようなネガティブなイメージで語られることもある*11。
ファッション・メイク・ヘアスタイルなどでイメージされることもあれば、見た目よりもマインドを重視する捉え方もある*12。
ギャルが登場する実話(風)エピソードが語られる時、受け手は各々、理想化されたギャルをイメージし得る。
そのことも、実話風エピソードにおけるギャルの「使い勝手」に影響しているのかもしれない。
追記:
書き忘れていたが、天の岩戸神話もまた、パリピ女性が引きこもりの背中を押す物語とも読めるのであった*13。
案外、この類型の歴史は長いのかもしれない。
おわり
*1:実話に基づくエピソードと、実話を装った創作(創作実話・嘘松)とが混在するところ、これらを第三者が判別するのは困難である。 そこで、以下、これらをまとめて「実話(風)エピソード」と呼ぶ。 当然ながら、「特定のエピソードが実話ではない」と主張するものではない。
*2:なお、ギャルが来訪神・マレビトである、という指摘はすでにされている( 粗野なヤンキー・ギャルの発言に「ハッとする」物語の原型は、民俗学でいうところの #マレビト 崇拝なんだよな。異文化圏から来て、閉鎖的なムラに知恵をもたらす存在。「来訪神と交わって、部族が栄えた」という神話 - cinefuk のブックマーク / はてなブックマーク )。また、寅さんであるという指摘や落語における大家さんや八っつぁんであるという指摘もある( 『物語内の「ギャル」』の役割、「寅さん」を手掛かりに考える試論。【大人のおとぎばなし】 - INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-)。
*3:一部は推測できる範囲で内容を補足した。
*4:エピソード開始時点における、語り手から見たギャルの立場
*5:同級生
*6:悩みが解決する?
*7:バイトの同僚か
*8:来訪神 - Wikipedia、 「来訪神の文化的意義を知る」 (視点・論点) | 視点・論点 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室、 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000411899.pdf 、 まれびと - Wikipedia、 折口信夫 「とこよ」と「まれびと」と
*9:より正確には、一部の実話(風)エピソードにおけるギャルは、来訪神と似た役割を果たす場合があるのだ。
*10:ギャルの属性化や少年・青年マンガにおけるギャルについては、以下の記事にまとまっている。 【まとめ】いかにしてオタクはギャルを大好きになっちゃったのか 〜マンガにおけるギャル萌えの系譜〜|コミスペ!
*11:https://www.mitsuifudosan.co.jp/s-e/infomation/pdf/report_091221.pdf